卓レポ過去記事

「作戦あれこれ」第53回 高性能ラバーの上手な使い方(3)

2014.05.02

<「作戦あれこれ」長谷川信彦>

 高性能ラバーの上手な使い方には、大切なことがたくさんある。今回は、どのようなラバーを選びどのようなラケットの削り方をしたら良いかの2点について述べてみたい。

 レシーブのやりやすさと打球の威力を考えてスポンジを選べ

 高性能ラバーを上手に使うには、レシーブがやりやすいスポンジの厚さを選ぶこともとても大事なことだ。
 それは、試合のとき自分の思っているところへ思い通りのレシーブができなければ、3球目攻撃の予測がまったくつかないばかりか、逆に相手に先手、先手と攻めこまれて自分の思うようなプレイができないからだ。
 たとえば、高性能ラバー使用者が表ソフトの前陣攻守型と対戦したとしよう。
 このとき、表ソフトの選手が試合巧者で、しかもフォアハンドのパワーもありプッシュショートもうまくフットワークも速い県のトップクラスの選手だったら、サービスを持ったときおそらく相手の動きをよく見たのち素早いモーションでフォア側のショートサービス、バック側のショートサービスを主体にときどき速いドライブ性ロングサービスやナックル性ロングサービス、変化サービスを混ぜて、サービスから前後に激しくゆさぶって攻め崩しにかかるだろう。
 このとき、高性能ラバー使用者が飛びすぎる厚いスポンジを使ったため台上のボールの処理が不得意となりツッツキレシーブしかできない、またはミスをするのが恐くて軽く払うレシーブしかできないとする。すると、先手必勝を戦法の基本とする試合巧者の表ソフトラバーの選手は、すかさず相手の弱点へフォア強打、プッシュ攻撃をする。あるいは、相手がドライブ攻撃をしようとしたら、ネット際に落とす臨機応変な3球目攻撃をしてドライブをかけさせない戦法をとってくる。こうなると高性能ラバー使用者は、次も相手のコートに返球するのがやっとになる。それを狙い打たれて高性能ラバー使用者は何にもできない、というラリー展開になることが多い。
 また、このぐらいの戦法は高性能ラバー使用者でも少しうまい人なら使ってくるので、高性能ラバーの人にもレシーブが下手だと結局勝てない。
 ところが、そのことに全然気がつかずに厚いラバーを選び伸び悩んでいる人が意外に多い。
 と同時に、レシーブはやりやすくなったが主戦武器がまったく衰えて自分のプレイができなくなる選び方もよくない。
 1つの例を上げると、攻めの早さとパワーを必要とする一般男子のドライブ主戦型の選手が、あまり威力のでない極めて薄いスポンジを使うことは問題がある。
 では、現在の日本男子のトップクラスの選手達は、どのような厚さのスポンジを使っているか紹介しよう。
 小野選手('79年世界No.1)、前原選手(全日本ランク3位)、阿部選手(全日本ランク4位)、内田選手(全日本社会人No.1)、清水選手(全日本学生No.2)は、スポンジが2.1~2.3㎜の、つまり全体で規定ぎりぎりの4㎜の厚さのラバーを使用。昨年のインターハイ3冠王の渡辺選手、全日本ジュニアチャンピオンの斉藤選手(ともに熊谷商高)も全体の厚さ4㎜のラバーを使っている。
 だが、女子選手はシェーク攻撃型の高橋選手(全日本2位)、林選手(全日本3位)がともに3.5㎜、漆尾姉(全日本ランク8位)、妹の友理枝選手(全日本ジュニア1位)はともに3㎜。
 中学女子チャンピオンのシェーク攻撃型の岡本選手がフォア側3.8㎜、バック側2.5㎜、2位の星野選手はスポンジの厚さが1.7㎜ぐらい。中学男子チャンピオンの池田選手や2位の田村選手は3.5㎜前後である。
 ところが昨年、日本のトップクラスの女子高校生を総ナメにした韓国の女子高校生は前陣攻撃型でスポンジが1㎜ぐらいの高性能ラバーを使用。このラバーでレシーブから積極的に払って先手をとり、日本の女子高校生を翻弄(ほんろう)した。日本の女子高校生のレベルだったら、薄いスポンジでもあらゆる技術を高めれば勝てることを示した。
 と同時に、速攻とドライブをうまく混ぜて戦う前陣タイプの選手だったら、男子でも薄いラバーで十分に通用する、と言える。
 たとえば、中大にいた前陣で両ハンド攻撃のうまかった山下選手である。彼は、1.3㎜前後のスポンジでレシーブから積極的に払って攻め、得意の前陣ドライブやスマッシュ、またはショートやバックハンド強打に結びつけ'75年の全日本選手権で前年度チャンピオンの阿部勝幸選手(協和醗酵)を破って3位に入賞した。
 私は、ドライブ型に入るのだがネットプレイがやりやすいようにスポンジの厚さが1.6㎜前後のラバーを使用している。シェークハンドだからかもしれないが、この厚さでもからだの使い方さえうまければ対等なラリーを引き合うことができるし甘いボールはスマッシュで一発で決めることができる。また、カットマンにいくらカットを切られても、ラバーに威力があり打ち負けない。そのため、私は現役を引退して6年目を迎えたが高性能ラバーを使用するようになったためカット打ちだけは現役時代より威力を増し、昨年の練習試合で全日本2連勝した高島選手と1勝1敗と互角の試合をし、高島選手をびっくりさせた。
 私にとっては、高橋選手や林選手などの女子選手より薄い高性能ラバーが自分の卓球にちょうど合っていると思う。
 特に卓球競技は、フォアハンドロング、ドライブ、スマッシュ、ショート、サービス、レシーブにコントロールがよくなければ自分の思ったプレイができない。
 これらのことから、ラバーを選ぶとき主戦武器を生かすと同時にそれらのボールコントロールができやすいスポンジの厚さを選ぶこと、またはレベルに応じたスポンジの厚さを選ぶことが大切だ、と私は思う。また、その方が上達が早いし楽しくプレイができるものである。

 ラケットは最低限フォア強打、ショート、ネットプレイのやりやすいように削れ

 高性能ラバーを上手に使うためには、ラケットの削り方も重要である。
 従来のラバーより、スピードと回転がより一層増した高性能ラバーを使いこなすためには、一番はじめに述べなくてはいけないぐらい重要なことだと思うが、高性能ラバーを使っている人は少なくともフォアハンド強打とショート、ネットプレイがやりやすいようにラケットを削ることが非常に大切だ。
 それは、どのような攻撃型を目指しても最低限この3つができなければなかなか自分の思うプレイができないからだ。

 ペンホルダーグリップ

 ラケットの削り方の悪い例を上げると、フォアハンド強打またはフォアハンドドライブ主戦の日本式ペングリップの選手がラケットを軽く握って「前にならえ」の形をとり、この姿勢からきき腕の手首を軽く内側に曲げたとき、ラケット表面が大きく天井に向くような人は削り方の悪い人。このような人は、ショートはやりやすいが、フォアハンドを打つとき肘を上にあげて打たなければならず、しっかりとボールを押すことができずパワーがでない。また、フォアに意表をつかれたとき角度が悪いために弱い。このような人はラケットの柄の裏のコルクと人さし指に当たる板の部分を少ししか削っていない人が多い。実際にラケットを握ってまっすぐに腕を伸ばしてみよう。ラケットの表面が天井を向いてしまう人は削り方が少ない。
 では、'69年世界チャンピオンの伊藤選手(タマス)、'79年世界チャンピオンの小野選手(日本楽器)などの世界を代表する日本式フォアハンド主戦の選手は、どのようなグリップかというと、同じように腕をまっすぐに伸ばしたときラケットが真横に向くようなグリップである。そのために、グリップの裏側をほぼ同じ高さまで削っている。人さし指が当たる部分は、底板が見えるぐらい深く削っている。伊藤選手はグリップの柄にかかっているところを先から1㎝初めに削りとってからさらに削っている。
 だから、2人ともしっかりしたレシーブの構えや基本姿勢をとったとき、ラケットの角度が自然にやや内側に向くために押しが十分に効き伸びるドライブ、大きく曲がるドライブ、沈むドライブの3種類のドライブが使い分けられ、同時に強烈なスマッシュやフォア前のボールの処理がうまいのだろう。阿部博幸選手のラケットも伊藤選手とほぼ同じ削り方だ。
 伊藤選手は「ラケットを握ったとき、人さし指の先端でラケットを支えなければならない。ラケットの裏側の指は中指と薬指の先の横腹でしっかりと押さえ、そろえた指の手のひらの中に、卵が1つ入るぐらいの余裕がなければならない」という。
 よく、打っている最中に人さし指がだんだん上にあがってきてラケットを両方の指で支えていない人がいるが、このような人はラケットに力を入れることができないために凡ミスが出やすいしラケットがグラグラしてどうしていいかわからなくなってしまうだろう。それともう1つ伊藤選手は「腕をまっすぐに伸ばしたとき、ラケットの先端が極端にさがる人は、すべての技術に災いするのでそのようになる削り方や持ち方はやめるように」とよく選手に話している。
 やはり、よい日本式フォアハンド攻撃型になるには、ラケットの先端の落度が10~30度以内に押さえなければならないと思う。

 郭躍華のグリップ

 世界で活躍しているペングリップのドライブ型の中には、もう1つのグリップがある。中国の郭躍華(カクヤクカ)(世界第2位)、朝鮮のジョ・ヨンホ-('79年アジア大会3位)に代表される中国式ドライブグリップだ。ラケットは日本式グリップのように深く削らず、中程度であるが親指は深く入れラケット本体をしかり押さえ、裏面は指をまるめ指の横腹でラケット本体を支えている。
 このグリップで同じようにして腕を伸ばす、とラケットの先端が45度近く落ち、ラケットの表面は少し上向きになる。だが、親指が深く入っているのと裏面の指がまるまっているのでフォア、バックいずれの角度も出しやすく、どのコースに打たれてもショートで返球しやすいし、また投げ上げサービスもドライブもやりやすい。
 ところが、日本式グリップのように相手のフォアへ曲がるドライブは出しづらく、フォアクロスの打ち合いになったら弱い欠点がある。反面、バッククロスはシュートボールのようなドライブが打てる利点がある。
 私はペンホルダーのグリップであれば、このいずれかが良いと思う。そのかわり、伊藤選手、小野選手のような日本式グリップの人は、フットワークとサービス力に一発スマッシュを身につけなくてはならない。郭躍華やジョ・ヨンホ-のようなグリップの人は、ショートをうまく使うことと、できるだけ前陣で戦うことに気をつけなければならない。

 シェークハンドグリップ

 シェークハンドグリップ(カットマンも含めて)の選手は、結論からいうと余り削らない方がよい。なぜならば、シェークハンドラケットははじめからふつうの人の手の大きさに合わせて作ってあるからだ。
 たとえば悪い例で、中指があたるところが痛いからといって深く削っている選手は、ラケットと手首が固定してしまうために打つ前に腕や肩に強く力が入り、切れのあるドライブやスマッシュやネットプレイができないだろう。このために深く削っている人で一流になった人はいない。
 もちろん、中指がいつまでたっても痛い人は少し削った方がいいが、絶対にネットプレイがやりにくくなるほど削らないことが大事だ。日本チャンピオンの高島選手、ハンガリーのヨニエル、クランパ、ゲルゲリー、スウェーデンのヨハンソン、ベンクソンなどの名選手のラケットを実際に見たことがあるが、少しも削っていない。私は1本差しグリップだが親指が当たる部分を少し削っている程度である。
 それと、シェークハンドの攻撃型でヨーロッパスタイルの選手は、軽く握って腕を伸ばしたときラケットの先端がやや上に向くのが良い。ラケットの面は真横に向くのが良い。
 私のような1本差しグリップは、先端はまっすぐラケットの面は真横に向くのがいい。このような持ち方の人は無駄な力が入っていないのでスケールの大きいプレイができるだろう。



筆者紹介 長谷川信彦
chuan_s.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960〜70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ“ジェットドライブ”や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
 
本稿は卓球レポート1980年3月号に掲載されたものです。