卓レポ過去記事

「マリオの指導アプローチ」 第9回 卓球はより大きく、そして複雑になっている

2017.08.09

<「マリオの指導アプローチ」>

 ここ10年間で卓球はどう変化してきたか
―今回は卓球というスポーツの国際的な現状について語っていただきたいと思います。まず、組織的な面での新しい発展についてお話ししていただき、それからプレーそのものに話を進めていただきましょう。
 それでは、まずは卓球というスポーツ全体についてお話をお願いします。ここ10年くらいを振り返ってみて、何が1番大きく変わったでしょうか。新しく発展してきたものは何でしょう。また、トップの部分の傾向はどのようになっているとお考えですか?
 
マリオ 私はバタフライのスタッフである一方で、日本卓球協会と契約して若い選手たちのコーチをしてきました。そのため、大会などに同行して世界中を旅行してきました。その経験から言うと、卓球は本当に大きなスポーツになったと思います。ほとんど毎週末には、注目すべき大会があります。そこには国際卓球連盟(ITTF)のプロツアー大会も含まれます。
 また、世界ジュニアサーキットの各オープン大会に続いて世界ジュニア選手権大会が開催されるようになり、卓球界はジュニアの部門が本当に盛んになりました。世界ジュニアサーキットがスタートした2002年にはオープン大会とファイナルを合わせて5大会が行われ、2年目の2003年には7大会が開催されました。今では、さらに大会数が増えました。参加者も増え、ますます注目を集めるようになっています。参加するためには大変な距離を移動しなくてはなりませんが、各地域の卓球協会や卓球連盟も、そして選手も、それほど問題にしていないようです。
 
―卓球が巨大化してきたとおっしゃいましたが、これは良いことであるとお考えですか?
 
マリオ もちろん良いことです。レベルの高い大会があるということだけでも楽しいことです。
 しかし、まったく問題がないわけではありません。中~長期にわたってトップを狙う若い選手にとっては、度重なる遠征で想像以上のストレスがたまってきます。こうした点をきちんと考慮してスケジュールを立てているマネージャーが、選手をサポートしているケースはほとんどないのです。
 時間的な面でいえば、各大会の間隔はより短くなっていますし、卓球というスポーツ自体もどんどんハードになってきています。これは、すでにトップレベルの位置にいて、その位置をキープしようとしている選手であればあるほど厳しい状態になってきているといえるでしょう。
 例えば、世界ランキング10位の位置にいる選手であれば、「次の3回のプロツアーに出たくない」と簡単には言えません。競争はどんどん厳しくなっています。ですから、アスリートとして十分な訓練を積みながら、同時に試合に参加していけるように、選手自身が完ぺきなマネージメントをしなくてはならないわけです。つまり、現代では、卓球というスポーツで成功することは、大変複雑かつ困難な仕事になっているといえます。だからこそ、選手たちは様々に努力しているのです。
 
―ITTFは世界ジュニアサーキットや世界ジュニア選手権大会を開催することによって、卓球人口が少なくて人気のない国に卓球というスポーツを広めようとしています。これは成功しているのでしょうか?
 
マリオ はい、成功しています。とても変わりました。いわゆる、これまで卓球に縁遠かった国や地域でも、プレーが良くなってきました。大会での交流を経験した結果だと思います。そして、今日ではこれらの国々にも良い卓球のコーチがいます。これはITTFが行っている国際トレーニングキャンプによるところが大きいと思います。全世界的に見ると非常に良いことです。
 すでに申しましたように、卓球というスポーツはますます国際的になっていて、非常に複雑になってきているのです。
 
 卓球のプレーは攻撃的になってきている
―テクニックと戦術という点から見ると、卓球のプレーはどのように発展してきていますか。レベルは上がったのでしょうか?
 
マリオ レベルは確実に上がっています。しかし、ここ数年を見ると、プレーが変わったとは言えないでしょう。これは卓球のルールが変更されてもそうなのです。ボールが40ミリになっても、ゲームがゆっくりになったわけではありません。サービスの威力は相変わらず強大です。
 1つ変化が見られるのは、ゲームそのものがより攻撃的になってきたということです。用具の改善によるところも大きいと思います。卓球メーカーは40ミリボールでのプレーを考慮したラケットやラバーの開発に余念がありません。ラバーもラケットも、よりスピードが出るようになってきました。 ジュニアでも、良い選手たちは以前よりさらにリスキーな(危険を顧みない)プレーをしています。もちろん「自分がコントロールできる範囲において」なのですが。
 
―「リスキー」でありながら「自分がコントロールできる範囲において」というのは矛盾した言い方ではありませんか?
 
マリオ いいえ、矛盾ではありません。これを強調したかったのですが、「非常に攻撃的かつ速く、しかもより安全なプレー」をするようになっているということなのです。
 これができるようになるためには、大変な練習をしなくてはなりません。高速プレーを可能にするためには、より長く練習場にいる必要があります。それで、今日のトップ選手は、速くかつ安全にプレーするのです。決して捨て身の攻撃になっているのではなく、速くかつ安全なプレーに適応できているということなのです。
 
―この攻撃的なプレーというものは、38ミリボールと比べて回転がかかりにくくなくなった40ミリボールと関係していますか?
 
マリオ いいえ、違います。選手の運動能力の問題だと思っています。
 
―トップ選手たちは、スピードの増加と攻撃性の増大によって、卓球をより魅力的なものにしたといえるでしょうか。中には「そうなっていない」と指摘する専門家もいるようですが。
 
マリオ もし、同レベルの選手が対戦するというのであれば、今日のトップレベルの卓球は非常に魅力的です。これは言うまでもないことです。しかし、対戦者同士のレベルに差がある場合には、試合が魅力的とは言い難くなることがあります。ただ、これはルールを変えることによって一挙に魅力的にでき得ることではないといえるでしょう。
 例えば、仮にサービスに関してバックハンドサービスのみを許可するというルールに変更したとしましょう。そうした場合、「サービスの威力が減ることで、試合がよりおもしろくなる」という意見をよく聞きます。しかし、私はこうも言えるのではないかと思います。すなわち「トップ選手はあっという間に、相手のバックハンドサービスに慣れてしまい、サービスの部分が非常に単調になってしまう」と。
 
―サービスについていえば、1ゲーム11本制になったことによって、リズムや変化という点で何か変わりましたか?
 
マリオ 難しい質問ですね。卓球の試合そのものはますます速くなり、ますます攻撃的になっています。試合の流れも大変速くなって、まるで今の0対0は昔の19対19のように思います。
 サービスの重要性は、精神的な面でますます高まってきています。ですから、サービスの種類をなるべく増やして、相手に常にプレッシャーをかけ続けるということが、大変重要になっています。
 
(2005年11月号掲載)